青崎有吾著『地雷グリコ』を読んで展開にモヤモヤ

雑記

青崎氏の『地雷グリコ』を後輩から借りて拝読。

生来のギャンブル好きで、『嘘喰い』の大ファンである筆者が活字に飢えていたところ、後輩が薦めてくれたのがキッカケだった。

本格ミステリ大賞、日本推理作家協会賞、山本周五郎賞とトリプル受賞したらしいこの作品。最近の直木賞と芥川賞はなんとなく好みではない作風が多く避けていたが、ミステリーの大御所が選んだ賞なら間違いないでしょ!とウキウキしながら読み進めたが、1章のみを読んでお腹いっぱいになってしまった。

カーディガンが3回ずれたあたりで、もう一回ずれたら読むのをやめようと考えていたが、ゲームの内容自体は面白く、最初の勝負である『地雷グリコ』の決着までなんとか読了。

最近はミステリー賞もラノベになってんのか……というのが1章を読み終わった感想。

率直に言ってしまうと、ミステリ大賞に値する作品だとは思わない。

 

ライトな作風は今の流行だろうし「自分には合わない」だけで済むが、トリックの展開と一部の心理描写についてはミステリー作品として見過ごせない。あまりにも不自然に感じたシーンがいくつかあるのだが、そう感じたのは僕だけだったのだろうか。

主人公は亜麻色の髪で、ミルクオレをじゅずぞぼと飲む、射守矢真兎

名前からしてラノベっぽいな、と思ったが、同苗字は日本に60人ほどいるらしい。全国の射守矢さんに心から詫びたい。

話は勝負を見届ける介添人(鉱田)視点で語られ、勝負事が強い真兎が文化祭での屋上の使用権を賭けて生徒会とゲームをして戦う、というのが大体のあらすじ。

お相手は生徒会長である椚先輩
……もしかしたら、ただの生徒会役員だったかもしれないが、眼鏡を掛けていたと思うので、おそらく生徒会長ということで。

 

『地雷グリコ』はその名の通りのゲームで、以下のルールに則って行われる。

簡単なルール

  • 46段ある階段をお馴染みのグリコで登り切った方の勝ち
  • グーで勝てば三段、パーかチョキで勝てば六段登れる
  • 両者ともに3つずつ相手には見えない地雷を仕掛けることができる
  • 地雷はスタート地点とゴール地点、相手と同箇所には置けない
  • 相手が仕掛けた地雷を踏んだ場合十段下がるペナルティを受ける
  • 自分が仕掛けた地雷を踏んだ場合、ペナルティはナシだが、相手に位置はバレる
  • 同段数による地雷の巻き添えはない
  • アイコが5回連続で続けば、上段にいるものがそのジャンケンに勝つことになる
  • 10段以内に仕掛けられている地雷を踏むと、スタート地点に戻る(マイナスはない)

※既読済みの方がほとんどだと思うが、以下一応ネタバレ注意。

 

勝負は前半に真兎が椚先輩の仕掛けた爆弾を2度踏み、絶望的な差が開いていたものの最終的に真兎の仕掛けた連鎖爆弾(30段ペナルティ)により逆転、という形で終了する。

前半部分に関しては、文句無しに面白い。

「アイコが5回連続で続けば上段にいる者が勝利になる」というルール上、当然先行するものが地雷グリコにおいては有利。
その点を踏まえても、序盤の椚先輩の策略はほぼ定石と言える。

15段目に仕掛けた地雷を自ら踏み、踏みにくくさせた上で真兎を12段目の地雷に誘導。
2段目まで後退させた後に、8段目に仕掛けた地雷を踏ませることで、スタート地点に戻す。

椚先輩側から見れば2段分損したように思えるが、15段目の未起動の地雷があるため、再度踏む段数が3の倍数になった真兎に15段目の手前(12段目)のジャンケンの縛りを行うことができる。

 

おお、面白い!めっちゃ面白いじゃん、地雷グリコ!

真兎は15段以上の差をつけられ、この地雷もうまく躱さないと差がさらに広まる。

どうやって地雷を回避し、この差を巻き返すんだ……?

 

と少しワクワクしながら読み進めると

椚先輩は一度も地雷を踏み抜かず、着実に勝利を重ねて”屋上”へと近づいていく。対する真兎は十五段目の手前でやはりまごつき、<被弾>はなんとか回避したもののその後も追いつこうとすればするほど先輩に手を読まれてしまい、空回り。

青崎 有吾 地雷グリコ KADOKAWA 33

は?

いや、なんで地雷回避できてんの?このゲームの1番の見どころだったんじゃないのか?
両者5回アイコになる可能性のある心理戦がバッサリカットって何事……?

地雷グリコにおいて、最大で進める段数はチョキかパーで勝利の6。グーで勝った場合は、3しか進めない。
どちらにおいても3の倍数でしか進めないわけだから、椚先輩の策略でスタート地点に戻された真兎は、15段目に仕掛けられた地雷を切り抜けるのは容易ではない

 

少し分かり辛いかもしれないが、このゲームの分水嶺となったはずの真兎12段目での両者の視点を整理してみよう。

真兎視点から見ると、地雷を回避するには12段目に行き、チョキかパーで勝って6段進むことで、15段目の地雷を回避するしかない。グーで勝っても3段進んでボカン。つまり、グーは出せない

椚先輩視点から見ると、真兎に絶対グーを出させて勝たせたい。真兎の仕掛けた地雷の在処も明らかになっていない上に、(前回の8段目被弾によって)2段分損した状況でさらに回避されるとなると、負ける可能性が高まる。
となると、真兎はパーかチョキしか出せないわけだから、椚先輩はひたすらチョキを出せばいい
真兎がパーを出せば6段上に進めるし、チョキを出し続ければ5回連続アイコで進める。真兎が早々にグーを出して自爆を選んだとしても、3つの地雷を踏ませて合計28段のペナルティは、地雷グリコにおいてはかなりのアドバンテージになるはずだ。

しかし、真兎が『常に正確さを追い求める徹底した合理主義者』として分析した椚先輩は、なぜか非合理的な手で15段目の地雷を素通りさせたらしい。……なんで?

仮に真兎に15段目で被弾させていれば、連鎖爆弾を喰らっていてもたったの5段差。充分に逆転のある勝負に持っていけただろうに……。

しかも、最終的な罠に掛かる前のお互いの段数は、椚先輩が39段目で真兎は27段目と、たったの12差。
”追いつこうとすればするほど先輩に手を読まれてしまい、空回り”とか書いてるけど真兎さん、どこらへんで空回りしてるの?不利な後発で大健闘してないか?
んで先輩なんぼほどチョキ嫌いでジャンケン弱いねんっ
先行してるんだったらチョキ多めに出しときゃ差が開いていくはずだろっ

 

中盤は思うところがあったものの、それ以外のゲーム展開で面白い場面もあった。

特に42段目を選ばせる心理戦は素晴らしい。
一度に3回爆破させる連鎖爆弾も2分の1の確率で踏ませる事ができるため、少しリスキーではあるものの期待値的には高そう。正直に言うと、普通に誰でも考えそうな作戦ではあると思ったが。

 

だが、よくよく考えると最後のじゃんけんの心理描写も少しおかしい

椚先輩は45段目に地雷を仕掛けていると考え、42段目にいくためにグーを出す。それは理解できるが、じゃんけんをした後に、「42段目に地雷はない、そうだろ?」とドヤるのは間違っている。
というのも、45段目に地雷が仕掛けてある、と考えているのであれば、真兎が最終じゃんけんの一発目にチョキを出して負けたことを不審がらなければならないからだ。

椚先輩側の視点で考えてみよう。

椚は45段目を警戒しているわけだから、グーで勝って42段目に行きたい。

椚先輩が考える真兎の心理はどうだろう?
「椚を45段目に行かせたい」そう考えているはずだから、必然と真兎の出す手はパーかグーのどちらかになる、と普通は推測する。
パーかグーを出して負ければどちらでも45段目に行かせることができるからだ。

それなのに、真兎が出した最初の手はチョキ。
椚先輩視点から見たら、すんなりと42段目に行かせたのはなぜだ?と青ざめる場面であり、決して勝ちを確信してドヤる場面ではない。

 

ミステリー作品として読むとやはり、最後の心理描写はともかく15段目の件の省略は見過ごせないかな。連続殺人事件に使われたトリックが分からないまま犯人だけ特定して事件解決。めでたしめでたし。みたいなミステリーを読まされているようで……いや、なんとなくこの例えは違う気がする。ミシュランで星を取った寿司屋に行ったら白身だけしか出ず、最後の最後に大トロが出てきて「うまかったでしょ?」みたいな事を言われて店を出される……まぁ、例えはともかく、モヤモヤが止まらない。

 

なぜ椚先輩が15段目をスルーさせたのか、自分なりに色々と考察してみたが、「真兎のパンツが見たかった」という結論に落ち着いた。

勝負の途中、真兎が椚先輩にパンツの件で茶々を入れた時、「お前のパンツなぞ見たくない」とクールに返したが、これはおかしい。
健全な男子諸君なら理解できると思うが、中高生時代のパンチラは通知表で”5”の数字を見るより遥かに貴重なもので、エロい響きの英単語にすら笑ってしまう思春期真っ盛りの男子学生にとっては正にアンタッチャブル。
「見る」か「見ない」の選択肢なら間違いなく後者を選ぶはずなのである。

文化祭で屋上を使える権利と、真兎の勝負パンツ。どちらがより良いかを考えると、合理主義者である椚先輩であれば天秤にかけるまでもない。

 

1章を読み終えて返却となった『地雷グリコ』だったが、後輩曰く、2章以降が特に面白いらしい。

どんな内容なの?と聞くと、まだ読んでないけどネットのレビューに書いてあった、という答えが返ってきた。今は映画も小説も、時短の時代なのかもしれない。

 

嘘喰いでも読み直すか……。

この記事を書いた人
ゆず

沖縄離島在住の30代。東京のマンモス大学を卒業後、リゾートバイトで各地を転々とし、南の島に落ち着く。
主にQOLを高める情報を発信中。好きな麻雀の役は「一発」。

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